パリの眼科の巻その2

後悔していると嘆きつつ向こうへ行てしまったドクターは、ずっとクリニック中の人が聞こえる声で一人話し続けています。てっきり朝っぱらからなんも見えんあたしのような患者が来てキーーとしたのかとビビッていたんですが、よく聞けば、あっちこっちに電話して、機械が壊れていることに怒っていて、壊れている機械がある診察室に代わってあげた事を後悔しているという事らしくホッと胸をなでおろしました。『後悔しているわ』という言葉を少なくとも60回ぐらい叫んでいました。もっとよく聞いてみれば、機械は壊れていなくて、操作の仕方を間違えていたようです。こんなめんどくさい機械はゴメンだわ!と最後に捨て台詞。戻ってきたドクターに直ったんですか、と聞くと、完全って訳じゃあありませんよ。だからあなたは私の本来の診察室で明日見てあげますから来てください。今日は、目の奥を見ますから。とまだ怒りの炎がユラユラしている手に目薬壜持って迫ってきます。目に瓶ごとぶっこむ勢いでジュッと薬を入れられ、あっちで目をつぶって待っていてください。と言い、まるで私の首に首輪がついているかの様、犬の散歩をする時の手つきの不思議なポーズで誘導してくれました。目をつぶって待っていたので、すっかり眠り込んでしまった頃、そこのマダム!と名前を忘れた時の呼び方で呼ばれたので、照れ笑いをしながら立ち上がりました。再び犬の散歩の手つきで誘導され診察室に戻ると、電気付きの虫眼鏡みたいなので目の中を覗きこみます。その覗き込み方が激しいんです。指一本分の隙間まで顔をくっつけてきます。もうドクターの睫毛の瞬きを感じるぐらいです。あー恐っとろしいったらありません。もう窒息死になるという時、何にもないわ、白内障も無し、問題ありません。と離れてくれました。とにかく明日視力検査に来てください。と紙に大きく、この人の明日の予約を拒否してはならぬ!と書き、これをもって秘書の所で予約をするようにと帰されました。
翌日律儀に行きました。例の声で名前を呼ばれたので行くと、会う早々『今日は何の用ですか?』 『ヘッ?あのー昨日機械が壊れていて。。。。』 『エッ!何言っているかさっぱり分からない!何のことですか?』これは悪夢か?
つづく