良い人

旅行好きの青年二人が全くお金を持たずに人の好意で目的地へ行くというテレヴィ番組がありました。スタート時は二人とも素っ裸です。先ずは森の中で葉っぱやビニールシートやぼろ布など落ちている物で人前に出られる状態にします。二人とも何しろ器用です、そして見かけ、態度も好青年なので、その恰好で人前に出ても、仮装しているのかしら、ぐらいで、人に度肝を抜かせることも、警戒させることもありません。彼らは車は無論、飛行機、船、グライダーなどをヒッチハイクして行きます。何日も家に泊めてもらって、食事や服、靴を提供してもらって、お弁当まで持たせてもらって最後は涙涙のお別れをします。機転が利いて、手先が器用な彼らのお礼の仕方もとてもチャーミング。
あ~、世の中良い人ばかりなのね。と温かい気持ちになる番組でした。
先日、滅法不便なパリ郊外にお客様をご案内する為の下見に行ってきました。街は駅から3KMほど離れています。万が一の場合を考えて道を覚える為に歩いて街まで行ってみることにしました。田舎を歩くのは気持ちのいいものだからと自分に言い聞かせて。ところが道は国道沿い、ビンビン車が通る道の細~い歩道でした。いつまでこの道は続くんかい!とぶち破れそうになった時、前方に街らしきものが見えました。古い由緒ある街に入って一安心。駅までの帰りはバスに乗ってみようと時間は既に確認済み。下見も万事完璧終了。さあバス停はどこ?あったあったと見て見れば、逆方向。一方通行なので裏の道かしらと行ってみれば工事中。プチパニックになり人も疎らな道の向こうから来たマダムに聞いてみりゃ、友達の家に遊びに来ていたエゲレス人で、I DON’T KNOW. 反対から来たマダムに聞いてみりゃ、100年前の記憶をたどるような目付きで思考し始め、やっとあっちの方よと指さします。本当に?とつい言ってしまいながらもお礼を言い、指さし方向へ歩いて行きましたが不安は大きくなるばかり。バスの時間も迫ってきます。そこへ、車から降りてきたムッシュ登場。駅へ行くバス停を探しているのですが、と言うと、バス停?バスに乗ったことないから知らないな。とこれまた役立たずの返事にチッとなりかけた所、ちょっと待ってて、今息子を迎えに来たところだから、その後駅まで乗せて行ってあげるよ、直ぐ戻るからね。当惑する私を無視して幼稚園の中へ入っていきました。お宅の方向なのですかと恐縮する私の言葉も無視して、駅は車でなら直ぐだから大丈夫大丈夫、とベンツの美しいクラッシックカ―を発車させました。
知らない人と車中一緒になる気まずさも無く、ヴァカンスの話などで盛り上がり、なんて心が温かく、寛大で良い人なのだろうと、ほんわりした気持ちで、お陰で早く着きすぎて電車を待つ長い時間も気になりませんでした。
この前、パリから1時間ちょっとの地方へ行った時です。パリへ帰る時間がはっきりしていなかったので、当日駅で切符を買う為に並んでいました。くるりと振り向いた前に並んでいたマダム。”あなたパリに行くの?” ぶっきら棒に ”ハイ”、 ”私割引カード持っていて4人まで使えるのよ、あなたの分買ってあげるわよ” 怪しむ私 ”ど―ゆーことですか?” 聞けば通常料金の25%で買えるそうです。で、本当にその料金で買ってくれました。切符1枚に2人分が記載されているので、一緒に座らなければならないのですが、少しお話したり本を読んだりで,丁度良い関係でパリに到着。これまた良い人に巡り合った幸せを噛みしめて家に帰りました。
お客様とモンマルトルのロープウェイに乗る時、お客様の1日券が機械に引っかかってしまいました。案の定窓口には誰も居ません。では私が下に降りて係りの人をとっ捕まえてきますから待っててくださいね。などとやっていると、後ろのマダムが切符を差し出すではありませんか。これをお使いなさい、と言って何でもない様子で行ってしまいました。なんとも自然発生した行為です。
テレヴィで見たような温かい人達はあのような特殊な状況だから出現するのだろうと思っていたのが、全く普通の事をするように私の前にも現れました。信じられないでしょうが、私はかなり人見知りをするのです。気軽に知らない人に声を掛けられないのが本当なのです。地下鉄や電車や飛行機に乗っても周の人としゃべるどころか見ることもせず、ずっと目は本の中です。もっと周りを見てニッコリしていれば、人に良い事をしてあげたり、いい出会いがあるのでしょうね。ノー携帯デーじゃなく(携帯はよく忘れる)、ノーブックデーを作ろうかしら。