悪魔か狐か

前回のつづき
『キクリー、明日来られる?』
地獄からの電話かと思うような声です。キクリーと人の名前を勝手に変えて呼ぶのは例の元チェリストしかいません。
深く深呼吸をしてから『どーしたの?』と優しく聞いてみました。
なんでも明日、難航している遺産相続手続きの為、公証人、弁護士2人、税関士が彼女の家に来るそうです。そして証人として誰か2人同席しなければならないそうです。その1人として来て欲しいという厳命のようなお願いです。
朝9時集合とのことなので、彼女の事だから何も無いだろう思って皆の分の朝食用のクロワッサンなど買って行きました。
結局3人の証人が駆けつけ、総勢8人が集まりました。皆が集まる前に厳重にキチガイ女のように決してならないようにといって聞かせたのに、彼女が一番気に食わない弁護士が現れるや否や、狐に獲りつかれたか、悪魔に乗り移られたかの如くの暴れよう。
証人1人は恐れをなしてとっとと帰ってしまったし、もう1人は台所に逃げ込んでしまいました。このような状況は初めてでない私は、暴れ馬に対するように、彼女の背中に回した手でドドドーと叩いたり、さすったり、引っ張ったりと正気に戻させるのに必死のぱっちでした。
彼女はいつもこの調子で物事をめちゃくちゃ複雑にしてしまいます。
ワーワー皆が怒鳴り散らし合う3時間が経って、何とか彼女が納得する解決策が出来上がりました。
サーサーこれでヴァカンスに出られるねと別れの挨拶をし合いながら、あなたがいてくれて本当に助かりましたと言われた時、あーこの人達はやっぱりすっかり彼女にうんざりしているんだなと思いました。
台所に逃げ込んでた証人もいつの間にか出てきて3人でともかくお茶を、と飲んでいる時には、さっきのキチガイ騒ぎが嘘の様に、ゆったり微笑んでお茶を飲んでいる彼女の頭の上には天使のわっかでも見えるようでした。
お昼を一緒に食べようと言う誘いを断った帰り道、どっと重くなった体を引きずりながら悪魔祓いをしてきた神父さんってこんな感じになるんだなと確信しました。
あーこれであたしもヴァカンスだ!