私の初体験のお話

和尚さんに出会ってしまったんです。
皆で食事したり、一杯飲んだりという状況での出会いでした。
和尚さんはびしっとスーツ姿でした。
いきなり歌いだす声の豊かなこと。
『すっごい声!』あたしは無意識の内に独り言を言ってたようで、隣の人がそーと、『何しろ毎日お経で鍛えていらっしゃいますから』と囁いてくれます。
その辺の人にさらさらと何やら書いた字の格好いいこと。
『すっごい字!』また大きな独り言を言ってたようで、隣で『筆は常に使っていらっしゃりますから』と囁いてくれます。
あーそういえば、お墓に立ってる、長いアイスクリームの棒みたいなのに書いたりするんだわね。
お墓参りに行った時、歩きながら眺めていて、 『あんな下手糞な字もあるんだね、あれはやっぱり安いのかしら?』と離れて歩いていた家族に大きな声で聞いたら、シッ!ともっと大きな音で打ち止めされました。
和尚さんの話の端々に、フィロゾフィーというか、教えというか、説教というか、その種の話が出てきます。
理解できず、鳩が豆鉄砲の顔のあたしに困ってしまった和尚さんは、2日後に行われる座禅会に誘ってくれました。
『座禅、瞑想』私から最も遠い世界です。
日曜日の朝など、リュクセンブルグ公園では太極拳や武道愛好家達のグループがいくつも練習しています。
ぶきっちょうな動きだな。とか、フランス人は力を溜めるということが分からんのかね。何のつもりでやってんかね。と横目で見ながら公園を通っていました。
フランス座禅会の偉い人、座禅会の普通の人、興味津々の私同様初体験のフランス人達、それに和尚さんの格好をした和尚さんが集まっています。
イヤー本当に和尚さんなんですね。などと余計なことを言いながら、ニヤニヤしている間に座禅会が始まりました。
日本では然る有名なお寺の有名な和尚さんだそうです。
確かに、そんな格好して、すくっと座ってチーンなんてやっているお姿を拝見すれば納得です。
20分瞑想して、少し足を伸ばして休憩、また20分の瞑想。
ノープロブレム、何の苦痛もなくすんなり溶け込めました。
まわりの初体験フランス人はもぞもぞ動くんです。もう20時近かったので、お腹がグイーなんて鳴ったり、気が散る要素が一杯だったんですがね。
瞑想が終わって、あー気持ちが清くなったとか、落ち着いたとか、何もなかったです。
『何はともあれ毎日続ければ、誰もが分かる時が来ます。』と、偶然そこで会った友達と、一杯飲んで帰ろうか、などと、けろりと相談している私に念を押してくれました。
今の時代、40分間何もしないで座っている時間を作るのが一苦労なんですよね。
いろんなことが絡み合って、頭がぐちゃぐちゃになった時、私は因数分解をするのが好きです。
先日も日曜の午後ずっと因数分解やっていたら、頭の中も綺麗に整理整頓できた気分になりました。
そんな時間があるなら、これからは瞑想をしてみるか。